2024年12月11日

スクラムだからみんなで決める?

読了時間の目安: 6分


こんにちは。asatoです。

チームのふりかえりで、「みんなでやる。みんなで決める。」が強すぎてスピード感がない、という課題について議論がありました。この議論の中で、「合議制が強くなったのはスクラムを誤解しているからでは?」という意見があり、面白いなーと感じたのでブログを書きます。

なぜ誤解が生じるのか

まずは、なぜ「スクラムだからみんなで決めないといけない」という誤解が生まれるのか、スクラムガイドを読みながら考えてみます。

スクラムはチームメンバーを尊敬する

スクラムチームのメンバーは、お互いに能⼒のある独⽴した個⼈として尊敬し、⼀緒に働く⼈たちからも同じように尊敬される。

スクラムの価値基準のひとつ、「尊敬」では、他のメンバーを「能力のある独立した個人として尊敬」すると述べられています。相手を尊敬しているのだから、相手に意見を求めない、合意なく進めることは不敬だと感じるかもしれません。

スクラムチームに階層はない

スクラムチームは、スクラムマスター1 ⼈、プロダクトオーナー1 ⼈、複数⼈の開発者で構成される。スクラムチーム内には、サブチームや階層は存在しない。

スクラムチームには階層がありません。従来のグループ体制では当たり前だった「リーダー」や「マネージャー」という役職名の指示役がおらず、ほとんどのメンバーは「開発者」というフラットな役割を担います。上下関係がないため、「全員で決める」という思考になりやすいでしょう。

スクラム”チーム”は自己管理型

⾃⼰管理型であり、誰が何を、いつ、どのように⾏うかをスクラムチーム内で決定する。

スクラムチームは自己管理型です。スクラムチームは自分たちのやり方を自分たちで決めるの裏返しとして、必ず「チーム」で決めなければならないというマインドセットが生まれるのかもしれません。

このように、スクラムガイドを読むと一見スクラムはチームの合議制を促進しているように感じる人も多いはずです。

スクラムはむしろ全員がオーナーシップを発揮することを推奨している

僕はスクラムに対して、反対方向の印象を持っています。スクラムは「全員で決める」のではなく、旧来のような「誰か1人が全てを決める」でもなく、「全員がオーナーシップを発揮する領域を持ち、それぞれがそれぞれの領域で責任を持って決める」ということです。

そう考えている根拠について、またスクラムガイドから引用します。

正しいことをする勇気

スクラムチームのメンバーは、正しいことをする勇気や困難な問題に取り組む勇気を持つ。

まず大前提として、スクラムチームのメンバーは「正しいことをする勇気」を持つことを求められています。僕たちは誰かに価値を届けるために、スクラムで仕事をしています(もちろん、メンバーの幸せも大切です)。そのためには「みんなで決める」は必ずしも正解ではありません。

スクラムはいたるところでオーナーシップに言及している

プロダクトオーナーやスクラムマスターについて、オーナーシップが明確に言及されていることは、個人のロールとして独立していることからも意識付いているはずです。

実は開発者についても同様に、個々人のオーナーシップについて言及しています。

専⾨家としてお互いに責任を持つ。

スクラムチームはクロスファンクショナルチームです。それぞれのメンバーは異なる専門性を持っています。つまりこの一文は、あなたの専門領域について、専門家として責任を持つこと、が書かれています。

オーナーシップについては、プロダクトオーナーの節に書かれている言葉が有用です。

プロダクトオーナーをうまく機能させるには、組織全体でプロダクトオーナーの決定を尊重しなければならない。

これはプロダクトオーナーに限定したものではありません。それぞれ異なる専門性を持った開発者間でも、その個人(の専門性)をうまく機能させるには、チーム全体でその個人の決定を尊重しなければなりません。その個人がオーナーシップを持ち、他のメンバーがその決定を尊重することで、より速く、より質の高い価値をデリバリーできるチームになれます。逆に合意がチームを鈍化させている可能性があることを恐れましょう。

スクラムチームのメンバーは尊敬されている

スクラムチームのメンバーは、お互いに能⼒のある独⽴した個⼈として尊敬し、⼀緒に働く⼈たちからも同じように尊敬される

先ほども引用した、スクラムの価値基準のひとつ、「尊敬」です。ここでは、他者を尊敬するのと同じように、自分も「能力のある独立した個人」として尊敬されています。つまり、自分の専門性やオーナーシップは尊敬され得るものです。スクラムチームはクロスファンクショナルチームであり、価値をデリバリーするために必要なすべての専門性が備わっています。あなたもその必要な専門性のうちのなにかしらの専門性を有しているからこそこのチームに選ばれています。そしてメンバーはその専門性を尊敬しています。

この中で、あなたの専門領域での改善を推し進めるために「全員の合意」はどれだけ必要なことでしょうか。

スクラムは経験主義に基づいている

経験主義では、知識は経験から⽣まれ、意思決定は観察に基づく。

経験主義は解釈が難しいです。僕は「机上の空論だけに頼らず、行動から経験を得て、そこから次の行動を決める姿勢」のようなものとして認識しています。

ここまで話してきた合意は、たいてい行動の前に行われます。僕は順番が反対だと感じています。もちろん行動を始める前の合意にも価値はあります。しかし、本当に大切なのは行動をとってみたあとの「続けるか、やめるか」という合意です。スクラムはリーン思考にも基づいています。いかに本当に続けるべきものだけを残せるかのゲームです。このゲームに勝つためには、常に「続けるか、やめるか」の意思決定を続ける必要があります。そして、新しい実験をフットワーク軽く始められるマインドがなければ、チームは凝り固まり進化が止まります。

実験して、経験を得て、それから継続を合意するとしても、遅くはありません。

合意と独裁とオーナーシップ

ここで、合意と独裁とオーナーシップで得られる成果のイメージを共有しましょう。 円の大きさの違いは、ある専門領域における知識や経験の違いを表しています。

合意

合意は全員のANDを取ったものがアウトプットになります。大抵の場合、他の二つよりも小さなアウトプットになります。ただし、その小さなアウトプットに対しては全員が満足しているというメリットがあります。

合意のアウトプットイメージ

独裁

独裁はある1人によって全てが決められ実行されるタイプの意思決定です。この場合、アウトプットはその1人の能力・専門性が天井になります。ANDよりもアウトプットは大きくなる傾向がありますが、他のチームメンバーの満足度を損なうリスクが大きいです。

独裁のアウトプットイメージ

オーナーシップ(とフォロワーシップ)

誰か1人がオーナーシップを持ち、他のメンバーがフォロワーシップを発揮しているとき、相乗効果が狙えます。そのオーナーが叩き台を作り、他のメンバーが率直にフィードバックを与え、オーナーはそれを参考に意思決定を行うスタイルです。たたき台がある中でのフィードバックでは相乗効果による新しいアイデアも生まれやすいです。これを目指しましょう。

オーナーシップ&フォロワーシップのアウトプットイメージ

まとめ

スクラムを始めると、「みんなで決めないと」の呪いにかかることがあります。でも僕は、「それぞれがそれぞれの専門性を活かして強いリーダーシップを取れ。同時に強いフォロワーシップを取れ。」と解釈しています。そっちの方が、アジリティも高まるし、楽しいです。

というわけで、こんなことに悩んだら、とりあえずリーダーシップ取って対話してみましょう!

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