この記事は「 スクラムマスター Advent Calendar 2023 」の2日目の記事です。
スクラムマスターをしているとサーバントリーダーシップに囚われていませんか? 特に今まで権威主義的リーダーシップでチームをまとめてきた方々がスクラムを実践しようとするとき、完全なサーバントリーダーに生まれ変わろうとしがちになります。
「スクラムマスターは、スクラムチームのサーバントリーダーである」とは、2020年版より前のスクラムガイドに記されていた言葉です。 それを見た方が、これからの時代サーバントリーダーでなくてはならないと思っているのでしょう。
このブログはそんな権威主義的リーダーシップを捨てサーバントリーダーになろうと四苦八苦している方々に向けて書いています。 権威主義的リーダーシップとサーバントリーダーシップを状況に応じて使い分けてチームを目標に向けて突き進めさせないといけないので、あまりサーバントリーダーに固執しなくてもいいですよ、と主張します! 特に、サーバントリーダーに囚われすぎてなかなかチームの成果が出ていない状況にある方々の肩の力を抜ければ嬉しいです。
Table of Contents
スクラムマスターとサーバントリーダーシップ
まずはスクラムマスターはサーバントリーダーではなくなった話をしましょう。サーバントリーダーシップはいりませんでしたという話ではなく、サーバントリーダーシップがもっとも表出させるべきリーダーシップではあるがそれだけではない、という話です。
スクラムマスター = サーバントリーダーはスクラムガイド2017にも直球で記載がありますので、キャッチーなWordでもあるので印象に残りやすいのでしょう。
スクラムガイド2017スクラムマスターは、スクラムチームのサーバントリーダーである(訳注:メンバーが成果を上げるために支援や奉仕をするリーダーのこと)。
一方で、スクラムガイド2020ではサーバントリーダーの言葉はなくなり、代わりに「真のリーダー」という言葉が登場しています。
スクラムガイド2020スクラムマスターは、スクラムチームと、より大きな組織に奉仕する真のリーダーである。
スクラムガイド2020の公開時、次のような説明もありました。
「サーバントリーダーになる」を目標に捉えたスクラムマスターが多かったのだろうと推察します。 一方で、Ken SchwaberとJeff Sutherlandの意図は、「チームがコミットメントを達成することにリーダーシップを発揮するにはサーバントリーダーシップが重要だ」だったのでしょう。 この流れは、スクラムマスターにとってチームがコミットメントを達成するために必要なリーダーシップを発揮することが大切であることにあらためて気づかせてもらえるものでした。
リーダーシップ
赤子の頃から知っている言葉のように「リーダーシップ」と言ってきましたが、これはなんでしょう。ChatGPTさんにお伺いを立てました。
ChatGPTリーダーシップは、組織やグループを導き、方向づけ、目標に向かって導くプロセスや行動のことを指します。リーダーシップは、単なる地位や権限だけでなく、影響力や能力を駆使して他者を指導し、結果を生み出す力も含まれます。
ご教授いただきありがとうございました。ChatGPTさんでした。
リーダーシップには2つの登場人物がいます。リーダーシップを発揮する「リーダー」と、発揮する対象になる「フォロワー」です。 ここでいうリーダーは組織から与えられた地位や役割ではないことに注意してください。誰もが文脈に応じてリーダーになりフォロワーにもなります。
権威主義的リーダーシップ
サーバントリーダーシップは1970年代に提唱された考え方ですので、それまで主流だったリーダーシップが存在します。権威主義的リーダーシップと言われています。リーダーがフォロワーに対して指示的に導くスタイルで、それをやりやすくするためにマネージャーやリーダーといった権威を組織が与えていました。本質は「指示的である」というところです。フォロワーは言われたことを言われたとおりにやることが求められます。権威主義的というと役職的な要素が含まれてしまいますが、このブログではこの指示し指示される関係を構築する部分にスポットライトを当てて権威主義的リーダーシップという言葉を使います。
例えばリーダー(マネージャーやリーダーの役割を組織から与えられている)がチームの目標を定め、フォロワーがやるべき業務を考え指示しその進捗を管理する、といった行動を取るのが権威主義的リーダーシップです。
サーバントリーダーシップ
そんな中、1970年代にサーバントリーダーシップが提唱され、「VUCAの時代」のバズと共に広くその言葉が普及しました。
サーバントリーダーシップとは | NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会サーバントリーダーシップは、ロバート・グリーンリーフ(1904~1990)が1970年に提唱した「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」というリーダーシップ哲学です。
VUCAの時代、目標を達成するためにはあらゆる変化に対応し続けることが求められます。それを一人のマネージャーやリーダーに委ねることはリスキーです。権威主義的リーダーシップでは、フォロワーの仕事はリーダーが全て決めていますので、リーダーの知識や経験がキャップになってしまいます。ひょっとするとあることに関してはフォロワーのAさんが得意で自分で考えてやってもらったほうがよい結果を得やすい可能性が高いのにです。 じゃあリーダーはフォロワーが自分の力を発揮できるように奉仕しようじゃないか、というのがサーバントリーダーシップです。
スクラムマスターがサーバントリーダーでいられる前提条件
スクラムマスター = サーバントリーダーには、ある前提条件が存在します。例えばアジャイル宣言の背後にある原則の1つ「意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成します」。あるいはスクラムガイドに記載されている「スクラムチームは機能横断型で、各スプリントで価値を生み出すために必要なすべてのスキルを備えている」。立ち上がりからこの状態にあるチームはどれほどあるのでしょうか。
もちろん、それをどうにかするのはスクラムマスターの役割の1つです。しかし、スクラムマスターの経験が浅かったり、組織やチームが成熟していない中でそれを実行することは容易いことでなく、その中でもチームは成果を上げることを求められます。そしてチームもまた、成果を上げたいと思っているでしょう。
スクラムマスターはリーダーシップのうち、サーバントリーダーシップがもっとも頻繁に表出している状態が理想だということに疑う余地はありません。しかしそれは、スクラムマスターはサーバントリーダーシップしか発揮してはいけないということではないと僕は考えています。権威主義的リーダーシップを得意とする人が、急にスクラムマスターを任命され、自分の武器を封印された状態でなんとかするという縛りプレイは不要でしょう。組織やチーム、メンバーの成熟度や状態によっては、権威主義的リーダーシップを発揮するのが適切な状態も実際にはあります。サーバントリーダーシップを発揮することが自分やチームにとってももっともよい選択だと思える状態に自分とチームを徐々にリードしていければOKです。
SL理論
SL理論(Situation Leadership Theory)というものがあります。組織やチームの成熟度に応じてリーダーシップのスタイルを変えながら組織やチームを開発していく理論です。
最初は何もわからない状態からスタートします(S1)。 この段階では指示的行動は高く支援的行動が低い、つまり「指示」がなければチームは機能しないでしょう。 それが続くと、チームは指示がなくても動けることが増えてきます(S2)。 チームの自立を考えて、指示的行動はまだ高いながらも支援的な行動も増やしていきたい段階です。 どんどん必要な指示的行動はなくなり、支援的行動があればチームが機能していくようになります(S3)。 最終的には支援的行動すら少なくてよい自律したチームを目指すことができます(S4)。
権威主義的リーダーシップはS1(~S2)、サーバントリーダーシップはS3(~S4)に当てはめられるでしょう。S4まで行っているならそのスクラムマスターは別のスクラムチームや組織を支援していそうですね。「Scrum Master The Way」のLv3相当です。
具体的な行動のイメージは、次の図がわかりやすいです。上の図と横軸の向きが逆なのに注意してください。
この理論からわかることは、発揮するべきリーダーシップはチームやメンバーの状態・状況によって異なる、ということです。つまり、真のリーダーは状態や状況に応じたリーダーシップを取る必要があるということです。
また、これはチームに対して一意に段階が割り当てられるものでもないと認識しています。 スクラムイベントはS3段階だからチームで運営してるけど、障害対応についてはS1だからS2に引き上げるためにはどうリーダーシップを発揮してこうか、といった悩みもスクラムマスターにはつきものでしょう。 サーバントリーダーシップを発揮しつつも、最終的には「こういう取り組みをやってみましょう!」と指示・提案する場面もあってしかるべしです。
チーム全体で見るとS3だけど、とあるメンバーはまだS2、という状態もあります。チーム全体の成熟度を高めるために、またこのメンバーの幸福のためにこのメンバーに対して他のメンバーとは異なるリーダーシップを発揮する必要も出てきます。
まとめ
このブログの主張は「スクラムマスターはサーバントリーダーシップに固執することなく、権威主義的リーダーシップとサーバントリーダーシップの両方をチームの状態・状況に合わせて使い分ける必要がある」です。 それはSL理論からも言えることなのではないかと思っています。 ぜひ、成果を出しつつ自分の強みを活かしつつサーバントリーダーシップも磨き続ける道を一緒に模索していきましょう!
リーダーシップの研究は沼のようです。 コンセプト理論 では5つのリーダーシップスタイルがまとめられていたりします。真のリーダー大変ですね。
そして最後に。リーダーシップは何に対しても誰か一人が発揮しなければならないものではありません。誰もが何かしらに対してリーダーシップを発揮できます。スクラムマスターは真のリーダーだから、全てにおいてリーダーシップを発揮できなければいけないわけではありません。むしろ、メンバーそれぞれにリーダーシップを発揮できる分野でリーダーシップを発揮してもらうようにリーダーシップを発揮することが真のリーダーなんだろうと考えている昨今です。あれ、難しいですね。笑 とにかく頑張っていきましょー。